舞台は現代でありながら、用意されたシナリオの道具は平安時代の陰陽道に通ずるものであり、立ちはだかる存在も牛鬼という異形の物。しかし、そういった中世和風の伝奇物だけでなく主人公の設定が高校生であるため、ヒロイン達との恋愛部分も含まれている長編サウンドノベル。
【バックストーリー】
のどかな田舎町である“打追”
「南護(みなみ・まもる)」は、この町の地中に眠る“牛鬼”を退治すべく遠縁の親戚である依絵に呼ばれて打追町にやってきた。平安時代に牛鬼を討った陰陽師の末裔である「護」だけが牛鬼を討つことができるという…。
牛鬼は十二年に一度大きく力を増し、そして今年はその十二年目にあたる。異形の怪物である牛鬼に対して、一体どうすればいいのか? その手がかりを掴むため打追の街を調べ始めた「護」は、徐々に隠された真実を知ることになる…。
こういう経緯から打追高校に転入した護は、遠縁の親戚である「南 依絵」,黒部荘の元気な一人娘「黒部 蘭」,気は強いけどどこか寂しげな少女「菅野 美咲」,いつも突如現れては助言めいたことを告げて忍者のように去っていく謎の女「南 智恵」などと交流を持ち、牛鬼の謎,打追の謎,彼女たちの過去などを知っていくことになります。またヒロインとして登場する彼女たちとの恋愛も感情移入という意味で非常に重要な部分になっています。
また、「ひとかた」は元々18禁ゲームとして作られており、現在公開されている「ひとかた」については18禁描写部分を添削して公開された全年齢対象となってますが、やはり所々にその名残が残っており結構キツイ描写も一部あるため、そういった強烈な描写が駄目な方には注意が必要です。
選択肢による分岐は無くストーリーは一本道です。「序」だけで30分、クリアまでに10時間以上もかかる長編ですが、とにかく文章力とシナリオ構成力が素晴らしく、意外なストーリー展開にどんどん引きこまれます。キャラ同士の会話もサウンドノベルにありがちな“作られている感”が無く、自然に感じられキャラクターの個性もよく伝わってきます。なによりも主人公の起伏する感情がリアルな言葉として表現され、長編といえども苦痛を感じることなく一気にラストまで読むことができました。
「ひとかた」を今更ながらに初めてプレイしましたが、よく指摘される主人公が下ネタ満載の寒いギャグ連発することも、クリアし終わってから思うと、あれも演出のひとつだったのかなと思いました。なによりも長い物語を読んでいる中、「護」の人間的な感情を生で感じて感情移入しまくっていた自分があり、その上で「護」が使命に隠された真相,存在意義を知って絶望して、耐え難い現実に葛藤しながら、それでも運命に立ち向かって使命を果たそうとする姿は、深く心に突き刺さりました。
また、ラストの呆気なさが逆に切なさをより一層さそい、のちにプレイヤーが様々と考えさせられる良い意味で余韻の残るラストだったと思います。クリアした後にタイトル画面に現れる“地図”にて読むことの出来る作者のコメントの中にエンディングについてがあります。プレイヤーとしては想像するしかないですが、ラストを考える材料として多少は心救われるかもしれません。